2010.9.16(木)-12.7(火) るんびにい美術館
無数の鏡がお互いを映しあうように、人はお互いの心にお互いを映しあっています。
私たちが感じている「人」とは、人そのものではなく、自分の心に映った「人のうつし絵」――すなわちイメージにほかなりません。すべて私たちは自分の心の中の「うつし絵」を通して、他者と結びついていきます。
心の中のうつし絵は時に造形化され、心の外にその姿を現わします。それらは「表現」や「作品」などと呼ばれますが、 それらもまた、見る人の心にさらなる「うつし絵」を生み出します。こうして心の中のうつし絵はまさしく合わせ鏡のように、イメージの乱反射を無数に交し合いながらお互いの心の世界を作り上げるのです。
今展では六人の作者による様々な「人」のうつし絵をご覧いただきます。
情念が激しく凝結した人物像を描く青木尊。人や神の眼差しを主題に絵画を連作する小田原光晴。異形の人型を造形する鎌田紀子。細かな色彩の集合で心寄せる人物を描く立花由紀子。94歳の今日までの思い出を絵日記風につづる仲澄子。戯画と独特の文体で人物を表現する平岡伸太。
そこに映し出される人のかたちの多様さは、私たちの心と心の出会いがどれだけ多様な世界を生み出しうるか、その無限の可能性を示唆しています。
お互いを映しあう私たち一人ひとりの心は、さしずめ一枚一枚の鏡のように思われます。しかし、鏡が何かを映すことでしか鏡になり得ないのなら――心も何かを映すことで初めて心になり得るのだとしたら――、私たちの本体とは個々の鏡のことではなく、むしろその間で反射を繰り返す無数の光線そのものの方ではないでしょうか。
本当の私たちとは、お互いを一人ひとりの他者として区別することのできない、大きな光の世界そのものに他ならないのかもしれません。
青木尊、小田原光晴、立花由紀子、鎌田紀子、仲澄子、平岡伸太
るんびにい美術館
障害者アート特別啓発事業(花巻市)委託